君は世界を旅してる
最近、一条くんと一緒にお昼を過ごすことが増えた。
お弁当を広げる私の隣で、コンビニのパンやおにぎりを食べる一条くん。
お互い何も言わなくても、場所は屋上と決まっている。ここなら誰も来ないから会話を聞かれることもないし、何より2人ともこの場所が好きだった。
雨の日は屋上が使えないので一緒に食べない、というのは、暗黙のルールだ。
「この前言ってた本のことだけど、やっぱり本屋に行ってみるのが1番早いと思う」
「あの本が2冊あるかどうか確認するって言ってたやつだよね。店長さんに聞いてみるの?」
「まあ、場合によっては。それより、何でもいいから適当な本を1冊買ってみる」
今日の一条くんのメニューは、焼きそばパンとたまごのパン。それにコーヒーと、栄養ゼリー。
朝と夜はちゃんとしっかり食べてるのか、不安になった。聞いてみようかと思ったけど、聞かれたくないことかもしれないと思ったら聞けなかった。
「え?どうして?」
「レシートを確認する。あの本に挟んであったレシートと違うものなら、2冊あることはほぼ間違いないと言っていい」
「あ、なるほど……」
感心したように頷いて、卵焼きを口へ運ぶ。
ふと視線を感じて横を見ると、一条くんがじっとこっちを見ている。
いや、私を見てるんじゃなくて、卵焼きを見てる。
「……いる?」
「は?いや別に、……欲しい」
はいはいっと笑って卵焼きをお裾分けした。このやりとりももう何回目かになる。
今度、一条くんの分もお弁当作ってきてあげようかなあと思ってることは、まだ内緒だ。