君は世界を旅してる
もうすぐ昼休みが終わる時間。
一条くんと解散して教室に戻ってきた私は、自分の席で5時間目の用意をすることにした。
数学は苦手だ。
なんとなく、一条くんは得意そうな気がする。
「真子、また一条澪と一緒にいたの?」
興味津々な様子でそう尋ねてきたのは千尋だ。
後ろの席で、私と同じように数学の教科書とノートを準備しているようだ。
「う、うん。ご飯食べてただけだよ」
「ねえ真子、知ってるかもしれないけど、ちょっと噂になってるよ」
「噂?」
何のことだかわからない。
声をひそめて話しかけてくる千尋に首を傾げてみせる。
「真子と一条が、付き合ってるんじゃないかって」
「………ぇええ!?」
心臓が止まるかと思った。
本人達が知らないところで、そんな噂をされているなんて。
無性に恥ずかしくなって、顔が赤くなっていくのを感じた。
「付き合ってないよ!誰がそんな噂作り上げたの!?」
「だってさ、最近よく2人でいるじゃん。一緒に帰ってるの見たって子もいるし、廊下でこそこそ話し合ったりもしてるでしょ?それに、今まで誰も寄せ付けなかった一条が真子だけに気を許してるって感じがする」
「こそこそって……、」
否定出来ない。
「私もよく聞かれるよ。”広野さんって一条と付き合ってるのか”って。まあ一応、否定しといたけどね」
まさかそんなことになっていたなんて。
一条くんといるの、少し控えたほうがいいのだろうか。じゃないとありもしない噂が流れて、一条くんに迷惑がかかる。
それに、一条くんが私といるのは、気を許してるからじゃない。秘密を共有してるからだ。
一条くんの秘密を初めて知ったあの日、屋上にいたのが私以外の誰かだったら、きっと私は今も一条くんとは友達じゃないだろうし、廊下ですれ違っても気付かないし気付かれないだろう。