君は世界を旅してる
「いいじゃん。どうせ1人で座るんでしょ?ほら行こ!」
恐る恐る一条くんのほうをちらっと見る。
そんなことしたら、あの噂がもっと広まってしまうんじゃないだろうか。
というか、一条くんは噂のことを知ってるのかな?
はあっとわざとらしく溜息をついて、一条くんも私の顔を見た。
それから千尋に聞こえないように、小声で耳打ちしてきた。
「ちょうど、放課後のこと話そうと思ってたから」
耳に一条くんの息が触れて、途端に心拍数がガツンと上がった。
赤くなりかけた顔を見られないように俯いて、こくこくと頷いてみせる。
「ちょっとー、何こそこそしてるの。あやし~」
「千尋!」
あははっと笑う千尋を追いかけるように、3人で視聴覚室を目指した。
もう既に半分ほどの生徒が集まっているようで、席がだんだんと埋まってきていた。案の定、後ろのほうはもうあまり空いてなさそうだ。みんな先生の目につきにくいところで寝ようとしているらしい。
私達は、廊下側の空いてる席に並んで座ることにした。一番廊下際が一条くん、その隣に私、千尋。
千尋は私と反対の隣の席も友達のようで、その子と仲良く話し始めた。
なんとなく、気をつかわれているような気がしなくもない。
「……アンタ、やっぱり人気あるんだな。さっきからちらちら見られてんだけど」
「えっ」
一条くんにそう言われて周りを見渡してみると、たしかに私達のほうを見て何かを言ってる子達がいた。
少し嫌な気分にはなったけど、あまり目立たないようにすぐに前を向きなおした。
「一条くん、噂のこと……知ってる?」
「噂?」
なんのことかわからないといった顔の一条くんを見ると、どうやら何も知らないようだ。