君は世界を旅してる

「いいじゃん。どうせ1人で座るんでしょ?ほら行こ!」

恐る恐る一条くんのほうをちらっと見る。
そんなことしたら、あの噂がもっと広まってしまうんじゃないだろうか。
というか、一条くんは噂のことを知ってるのかな?

はあっとわざとらしく溜息をついて、一条くんも私の顔を見た。
それから千尋に聞こえないように、小声で耳打ちしてきた。

「ちょうど、放課後のこと話そうと思ってたから」

耳に一条くんの息が触れて、途端に心拍数がガツンと上がった。
赤くなりかけた顔を見られないように俯いて、こくこくと頷いてみせる。

「ちょっとー、何こそこそしてるの。あやし~」

「千尋!」

あははっと笑う千尋を追いかけるように、3人で視聴覚室を目指した。


もう既に半分ほどの生徒が集まっているようで、席がだんだんと埋まってきていた。案の定、後ろのほうはもうあまり空いてなさそうだ。みんな先生の目につきにくいところで寝ようとしているらしい。

私達は、廊下側の空いてる席に並んで座ることにした。一番廊下際が一条くん、その隣に私、千尋。
千尋は私と反対の隣の席も友達のようで、その子と仲良く話し始めた。
なんとなく、気をつかわれているような気がしなくもない。

「……アンタ、やっぱり人気あるんだな。さっきからちらちら見られてんだけど」

「えっ」

一条くんにそう言われて周りを見渡してみると、たしかに私達のほうを見て何かを言ってる子達がいた。
少し嫌な気分にはなったけど、あまり目立たないようにすぐに前を向きなおした。

「一条くん、噂のこと……知ってる?」

「噂?」

なんのことかわからないといった顔の一条くんを見ると、どうやら何も知らないようだ。

< 66 / 151 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop