君は世界を旅してる

「見られてるのは、人気者だからじゃないの。あ、そもそも人気なんかじゃないんだけど。実はね、私と一条くんが付き合ってるっていう噂があるみたいで」

「はあ?本気か?」

驚いたように目を見開く一条くん。
本当に知らなかったらしい。

「みんな、その噂が本当なんじゃないかって見てるんだと思うんだ」

「ふーん。……ああ、それで」

「え、なに?」

何かに気が付いたように口元に手を当てて、一条くんが小さく頷くようなそぶりを見せた。

「いや、なんでもない。悪いな、俺のせいでそんな噂立てられて」

「一条くんは悪くないよ、巻き込んでるのは私なんだから。一条くんの迷惑になってばっかりで……」

「別に迷惑じゃないし。俺が自分で協力するって決めたんだ」

なんでもないことのようにそう言ってくれる一条くんを見て、安心したように息をついた。
だけど、こういう恋愛系の噂は一度立ったらなかなか収まってくれないものだ。

「噂のこと聞かれたら否定するようにはしてるんだけど。ごめん、嫌だよねこんな噂。これから、あんまり一緒にいないほうがいいのかも……」

「俺、嫌だなんて言ってないけど」

「………へ?」

思わず一条くんの顔を見る。
その表情は、いつも私と屋上で話すときと同じ、いつも通りの顔だった。

「広野が嫌なら、俺からは話しかけないようにする。一緒に帰ることもしない」

「い、嫌じゃない!」

そう言うと、一条くんの表情がふっと緩んだ。
ふいに見せてくれるこんな笑顔に、私はいつもドキドキさせられっぱなしだ。

「じゃあいいだろ。今まで通り、俺は全力で広野に協力する。な?」

そんな言葉をもらえたことが嬉しくて、頼もしくて、私も一条くんに向けて思わず顔が綻んだ。
安心して、今まで通り一条くんと一緒にいよう。そう思って幸せな気分になったとき。

「あー、真子ちゃんだ」

後ろから、誰かに声をかけられた。


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