君は世界を旅してる

「……どうなってるって、何にもないよ」

「本当~?一条と仲良いから僕、すっごく妬けるんだけど」

「嘘つかないでよ」

「嘘じゃないって。あ、まだ疑ってるんだ?ひどいなあ」

だって信じられないから。
今、こうして話しかけられているのも、からかわれてるとしか思えなくて。

「俺さ、一条には真子ちゃんのこと譲れないから。それだけは覚えといて?ねっ」

キラキラと星が飛んできそうなスマイルで早川くんはそう言ってのけた。
顔が引きつりそうになるのを必死でこらえて、愛想笑いのようなものを浮かべてみる。

するとふいに視線を感じて、周囲を見渡してみると、早川くんの2つ隣に島崎さんの姿があった。
島崎さんは、早川くんと話す私をじいっと見つめているように見える。
普段無表情な島崎さんなのでよくわからないけど、もしかしたら睨まれているのかもしれない。
ぎくっと自分の肩が強張るのがわかった。
ろくに話したこともないけれど、私は多分島崎さんのことが苦手だ。

どうやら吹奏楽部で固まって座っているらしく、早川くんの周りは女の子ばかりだった。
こんな状況で話しかけてくるなんて、早川くんは自分の人気っぷりをご存じないのだろうか?

助けを求めるように隣を見ても、一条くんと千尋はすやすやと眠っている。
この授業、睡眠時間じゃないんだけどなあ。

楽なはずの6時間目の授業は、思ったよりずっと緊張した雰囲気の中で受けることになってしまった。
もちろん、DVDの内容はまったく頭に入ってこなかったのは言うまでもない。

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