君は世界を旅してる
「ここ、は」
一体どういうことかと、手品はどうなったのかと一条くんに聞こうと思ったそのとき。
先生がつかつかと歩き出し、ある机の前で立ち止まってバンッと手をついた。
「授業を聞かんかコラァ!!」
「!?」
先生に怒られている生徒をよく見ると、なんと、信じられないことに、私だった。
後ろの席の千尋と2人でしまったという顔をしている自分を見て、いよいよ混乱してきた。
というかこの光景には覚えがある。さっき受けた、5時間目の現代文の授業そのものだ。
「……一条くん」
「見えてないよ、俺らのことは誰にも」
「え、そうなの!?」
「これが昼休みにアンタに見られた、俺の秘密。わかった?」
「全然わからないんですが!」
落ち着いた雰囲気を崩さない一条くんに納得がいかず、胸倉をつかむ勢いで迫った。
そんな私に心底迷惑そうな顔をした一条くんは、予告もせずにもう一度手を握ってきた。
「わあっ」
「はあ……。ま、いいや。とりあえず戻ろうか。あんまり長居したら戻るのが遅くなる」
「戻るって、」
「ほら、もっと強く繋いどかないと離しちゃうよ」
「え、いやだ!」
強く強く手を繋いで、誰も見向きもしない教室の中。
一条くんはさっきと同じように、静かに目を閉じた。
つられるように目をつぶった瞬間から、また無重力の世界に放り出される。
ほんの10秒過ぎる頃には、もう私達の体はもとの屋上へと舞い戻っていた。