君は世界を旅してる
「だけど早川くん、よく一条くんに話しかけてるような気がするんだけど。気のせい?」
「それは、……アンタと俺がよく話してるからだろ」
「え、なに?」
一条くんがボソッとつぶやいた言葉は、よく聞こえなかった。
「あー、早川とは、同じ中学だったんだ」
「えっ!」
予想外の関係性にびっくりして足が止まる。
合わせるようにして、一条くんも止まってくれた。
「俺の中学からこの高校来たやつ、俺とあいつだけなんだ。だからって中学で仲良かったわけでもないんだけど」
「そうだったんだ……」
「ただ、昔色々あって。あいつは俺のこと嫌いだろうな」
「き、嫌い?」
「あいつ、昔からモテるんだよなー」
そう言って再び歩き出した一条くんに遅れないように、慌ててついていく。
嫌いってどういうことだろう。嫌いな相手に、あんな風に話しかけたりするものだろうか?
気になるけど、それ以上話してくれなさそうなので無理に聞かないことにした。
私が軽々しく聞いたらいけないような気がしたから。
本屋の前には、小さめの公園がある。
それが目印になって、久しぶりだけど無事に本屋に辿りつくことが出来た。
住宅街にひっそりと佇む様は、この店の歴史の長さを感じさせた。
昔ながらの引き戸の前に、小さな看板が出してある。そこに書いてある店名は少し剥がれていて、地面に置かれたプランターには手入れされた花が植えてある。
「何買おっか?」
「それは入ってから決める」
緊張しながら手をかけた扉は、カラカラと音を立てた。