君は世界を旅してる

「いらっしゃい」

店の奥、カウンターの中におじいさんが座っている。
2年半前に来たときと同じ人なので、この店の店長だろう。

ぺこりと頭を下げて、店内をぐるりと見渡した。
ずらっと並んだ本棚には、余すところなくぎっしりと本が詰まっていて、入りきらない本は本棚の上やカウンターの上、床に置かれたカゴの中に溢れていた。
あまり広くない店内に、これだけの物語が収まっているんだと思ったら、感動すら覚えた。

一応ジャンルごとに棚が分けられているようで、一条くんは洋書が並んでいる棚を見上げている。
私は本のことはわからないので、本棚と本棚の間をぐるぐると回ってみる。
相当古そうな、ボロボロになっている本を何気なく手に取って、その値段に驚いて慌てて元の位置に戻す。おそらくかなり貴重な本なんだろう。

カウンターに置かれたスピーカーから、ラジオの音が聞こえてくる。
懐かしい歌や最新のヒット曲が流れている。店長の日課なのかもしれない。

ふと見上げた棚の中に、目につくタイトルの本を見つけた。
気になったので手に取って表紙を見てみると、男の子と女の子が手をつないで目を閉じているイラストが描かれている。
2人は明るい光に包まれていて、とても幻想的だった。

「おい、何か買いたいのあったか?」

見終わったらしい一条くんがそう声をかけてきたので、ちょうど手に持っていた本を見せた。
古本なので値段も高くないし、その本を買うことに決めた。

カウンターへ持っていくと、店長さんは立ち上がって笑顔で会計をしてくれた。

「どうも、ありがとう」

「ありがとうございます」

紙袋に本とレシートを入れてもらい、店を出た。

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