君は世界を旅してる
目の前にある公園のベンチに2人並んで座った。
紙袋の中からレシートを引っ張り出して、待ちきれないというように2人一緒にのぞき込む。
「「……違う」」
そして同時に声が出た。
違ったのだ。お母さんの本に挟まっていたレシートと。
「あのカウンターに置いてあったレジの機械ごと変わったんだろうな」
「え、ちょっと待って、じゃあどういうことになるの?」
頭が混乱しそうになって、状況をうまく理解出来ない。
一条くんはそんな私を見て、ゆっくり説明してくれた。
「つまり、俺達が4月5日に行って、広野の母さんが受け取るところを見た本。あれが、広野が家で見つけた本だ」
「うんうん。古いレシートが挟まってたってことは、結構昔から持ってたってことだよね」
「そうだ。かなり前に広野の母さんが手にいれて、それをあの男の人に渡していた。そして、あの4月5日に返してもらったんだろう」
あの男の人というのは、4月5日にお母さんとカフェで会っていた人だ。
「広野の母さんはそれとは別に、2年半前にまったく同じ本をこの店で買った」
「じゃあお母さんは、この本を2冊持っていたってこと?」
「いや、この本を2年半前に買った時点では、もう1冊はまだ男の人が持ってたはずだ」
「あ、そうか」
手の中のレシートを見つめる。
だんだんともつれた糸がほどけていくような気分だ。
「じゃあお母さんは、古いほうの本はもう返してもらえないと思ってたのかな。だけどどうしてももう一度手に入れたくなって、買っちゃったのかな」
「理由はまだわからないな。だけど2年半前の時点では、そう思ってたのかもしれない」
お母さんは一体何を思って、何を考えていたんだろう。
目の前にはさっきの本屋がある。あそこには、もっとヒントが隠されているような気がする。
「……ねえ、」
「ああ。俺も多分同じこと思ってる。今あの本、持ってきてるか」
一条くんと目を合わせて、しっかりと頷いた。
それから2人同時に立ち上がって、もう一度本屋へと向かう。