君は世界を旅してる
「だからあの本が手に入って、無事に彼女の手に渡ったときは本当に安心したよ。次は後悔しないようにしますって言っていたからね」
「そんなことがあったんですか……」
たしかにあの日、お母さんすごく嬉しそうにしてた。
どんな気持ちだったんだろう。今となっては知ることは出来ないけれど、幸せな気持ちだったことを祈った。
「このレシート、このお店のですよね?」
古いレシートを本の間から取り出して、店長に見せた。
すると店長は、それはそれは驚いた顔をした。
「これは……。君が持ってるその本は、この前彼女が買って行ったものじゃないのか」
「私達の考えでは、この本は、その女の人が受け取らなかったものだと思います」
「なるほど……。それは彼女が持っていたのかね?」
店長の言葉に頷く。
「それなら、結果的に受け取ることが出来たんだね、良かった」
そう言って嬉しそうに微笑む店長。
少し垂れ下がった目じりが、心から喜んでいることを表しているようだった。
「こっちの、古いほうを買ったのは、その女の人じゃなかったんですか?」
「ああ、それもよく覚えてる。真面目そうな男の人だったね」
「男の人……」
誰だろう。私の知らない人だろうか。
すると、今まで黙っていた一条くんが口を開いた。
「では、女の人からこの本を受け取らなかったと聞いたとき、あなたは相手がその男の人だとわかったんですか?」
「む、これは鋭い子じゃ。そうだよ、すぐにこの本を買っていった男のことを思い出した。この店に通う者同士、上手く行って欲しかったね」
つまり、男の人がこの店で本を買う。その本をお母さんに渡そうとしたけど受け取ってもらえなかった。今度はお母さんがこの店でその本を探し始める。お母さんがその本を探し始めたいきさつを店長に話す。
店長はこの時点で、この2人が本のやりとりをしたことに気付いたのだろう。
「どうして本を受け取らなかったのか、それは残念ながらわからないよ」
「その男の人、一体誰なんだろう……」
「おや、彼女から話を聞く限りでは、君は本を受け取らなかった場面を見ているはずだよ」
「え?」
思いもよらない一言にびっくりして店長を見つめる。
一条くんも同じように驚いているようだ。
「彼女の、お腹の中でね」