君は世界を旅してる

「まず、古いほうの本の経緯だ。俺達は、広野の母さんが手に入れて、男の人に渡したと思ってたけど、そうじゃなかった」

「最初に手に入れたのは男の人だったんだね。それをお母さんにあげようとして、でもお母さんは受け取らなかった」

「そのことをずっと後悔してるらしいって言ってたな。だからせめて、2年半前に同じ本を買って手元に置いてた」

そうだ。その時点では、きっとお母さんは二度と古いほうの本を見ることは出来ないと思ってたんだろう。

「だけど今年の4月5日、男の人からまた本を渡される。この男の人は、昔広野の母さんに本をあげようとした人と同一人物だろうな」

「そう思う。それで結局、お母さんの元には同じ本が2冊になってしまったんだね」

もう1冊も、家のどこかに残ってるんだろうか?それとも、お母さんが持って行ってしまってるかもしれない。

「とりあえずの流れはこれで合ってるだろうな。あとはまあ、あのじいさんが言ってたことだけど」

「店長さんね。あれってどういうことなんだろう」

男の人からお母さんが本を受け取らなかったとき、私はお腹の中からそれを見ていたはずだと言われた。
つまり、当時お母さんは私を妊娠していたってことだろう。

「てことは、18年前だ。あの本は18年前に男の人が手に入れて、広野の母さんに渡そうとしたんだ」

「そんなに前のことなんだ……」

「なるほどな。それで受け取ってもらえなかった、か」

「え?受け取らなかった理由がわかるの?」

1人で納得した顔の一条くんに、慌てて尋ねる。
頭の構造が違いすぎて、気がつくとすぐに置いてきぼりにされてしまうのだ。

「おい、もう忘れたのかよ。あの本にはレシートの他にも挟まってたものがあっただろ?」

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