君は世界を旅してる

「他に……。あ、指輪!?」

一条くんが大きく頷く。
本の経緯ばかりに気が向かっていてすっかり忘れていたけど、指輪のようなものが挟まってた跡がくっきりと残っていた。

「妊娠してる相手に指輪を渡すって、どういうことだろうな?」

「……まさか、本当に結婚指輪?」

「これは俺の推測だけど、まあ多分間違いないだろ。広野の母さんは、結婚する前に広野を妊娠した。それを知った相手、広野の父親は、この本と一緒に指輪を渡してプロポーズしたんだ。だけど本を受け取らなかった。つまり、プロポーズを断った」

私の、お父さんのことだ。
私はお父さんの顔を知らない。名前も職業も年齢も知らない。
お母さんはそんな話まったくしなかったから。

目眩がしそうだ。
まさかここでお父さんの存在が出てくるなんて思いもしなかったから。
しかも一条くんの予想が正しければ、私のお父さんは、あの男の人だということになる……。

「指輪は、どこに行っちゃったんだろう。さすがに18年前の本だし、失くしちゃったのかな」

「あんなにくっきり跡が残ってるってことは、かなり長い間挟んであったはずだ。それこそ、18年前からつい最近までな」

「え、じゃあ、お母さんが家を出ていったときに、指輪だけは持って行ったってこと……?」

もしお母さんが今、あの男の人以外と一緒にいるなら、そんなことはしないだろう。
4月5日の会話から考えて、お母さんは間違いなく、あの男の人と一緒にいる。
指輪を持っていったことを考えると、ようやく2人は結ばれたのだろうか?

じゃあ何故、そこに私はいないんだろう。
私の実の両親なのに。
どうして私は取り残されたんだろう。

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