君は世界を旅してる
ドサっと、倒れこむように地面に座り込んだ。
なかなか息が整わない。緊張と混乱、恐怖でいつまでも動悸がおさまらない。
いつの間にか離されていた手のひらには、汗をかいている。
「い、一条く、なに、したの」
「だから見たまんまだって。過去に飛んだの」
「………えぇええええ!?」
眉間にしわを寄せて耳を塞ぐ一条澪くん。彼は今何と言ったか。
過去に飛んだって聞こえたのは、聞き間違いだろうか。
「それが俺の持つ能力。俺は過去を見ることが出来る」
唖然とした。
咄嗟に、さっきまで彼と繋いでいた自分の手のひらを凝視した。
それから一条くんの顔を見ると、鬱陶しそうな表情をしている。どうやら感情を隠さないタイプの人のようだ。
「あーあ、失敗した。この屋上なら立ち入り禁止だし、誰もいないだろって思ったのに。昼休み、過去からここに戻ってきた瞬間をアンタに見られた。ほんと最悪」
……それから、少し口も悪いみたいだ。
「じゃあ、さ、さっきのは、今日の5時間目に戻ってたってこと?」
「そう。戻ってたって言っても、俺らの姿は過去では見えない。実体じゃないっつーのかな、物に触れたりは出来ない」
「そ、そうなんだ」
「まあ、過去はもう過ぎたことなんだ。いじったり出来ないようになってんだろうな」
手品の練習してたんじゃなかったんだ。
マジシャン目指してるんじゃなかったんだ。
屋上に向かうとき、あんなにウキウキしてた自分が的外れ過ぎて恥ずかしい。
「そういうの、って、テレポート?って言うのかな。タイムマシン?」
「……さあ、呼び方なんて気にしたことないけど。ただ過去を見れるってだけで」
”過去を見れるだけ”だなんて、それがどれだけすごいことなのかわかってるんだろうか。
そんなことをさらっと言えてしまうほど、一条くんにとって”過去を見る行為”は当たり前のことなのだろう。