君は世界を旅してる
今まで、私のために全力で協力してくれて、優しく励ましてくれたり勇気付けてくれた一条くん。
そんな人の、一条くんの心からの善意を受け取るのが怖いなんて。
一条くんは何かを言おうとして、だけど身体中で拒否する私の態度を察したのか、何も言わなかった。
「もう、嫌。もうやめる。……これ以上は、もう」
掴まれていた手首は、簡単に振り解けた。
それを寂しいなんて思う権利は私にはないんだ。
一条くんにじっと見つめられているのがわかる。だからこそ、俯けた顔を上げることが出来なかった。
今一条くんの顔を見てしまったら、絶対に泣いてしまう自信があった。
だから、目を合わせることなく背中を向けた。
屋上の扉を開けても、一条くんは何も言葉を発さなかった。
ここまで、私と一緒に精一杯、必死になって秘密を解き明かそうとしてくれた人に、お礼のひとつも言い出せないまま、逃げるようにその場を去った。
紙パックのカフェオレが、風で倒されているのが視界の隅にうつった。