君は世界を旅してる


逃げたんだ、私は。

知りたいと思ってた真実も、お母さんの居場所も、もうこれ以上は知りたくなかった。

だって、もう結果は火を見るよりも明らかだから。
その事実を改めて確認するのが怖いから。
どう受け止めて、どう立ち直ったらいいのかわからないから。

だったら、分かり切ってる結果を確認する前に辞めてしまいたかった。


なかったことにしよう。
お母さんのことは、私は何も知らないまま。
あの手紙を見つけて、途方にくれて、どうしたらいいのかわからないままただただ毎日を生きて、一条くんと出会う前の自分に戻ろう。

そう思って、前を向いてみる。

だけど……。
一条くんと一緒にいたこと、話したこと、一条くんを見たらドキドキすること。
それは忘れたくないなんて、なんて我儘なんだろう。

前を向いた視線の先には、一条くんの背中が浮かんで消えた。


その日から、私は屋上に行くことを辞めた。

一条くんと廊下ですれ違っても気付かないように、俯いて歩くことが増えた。



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