君は世界を旅してる


「千尋………」

数日後、今度は千尋の手首に包帯が巻かれていた。
やっと顔の痣が消えてきたと思っていた矢先のことだった。

「なに、そんな顔しないでよ!たいした怪我じゃないから!」

千尋こそ、どうしてそんな顔で笑ってるの。
1人で自転車で転けたとか、コーヒーこぼして火傷したとかだったら、そう言ってよ。
言わないってことは、言えないんじゃないの?それはつまり、その怪我には人に言えないような理由があるってことじゃないの?

「……ちょっと来て」

包帯を巻いてないほうの手首を引いて、千尋を教室から連れ出した。
こうなることがわかってたのか、千尋は大人しく付いてくる。さすがにごまかせないと思ったのかもしれない。

人気のない廊下の奥まで来て、足を止めて千尋と向かい合った。

「……誰にされたの」

「誰でもないって。これは昨日、」

「大樹さん?」

「!」

大樹さんの名前を出した瞬間、千尋の肩がびくっと強張った。
正解と言ってるようなものだ。

「そうなんだね。何されたの?」

「や、違う。彼はなにも悪くないの」

どうして庇うんだろう。
こんなに怪我してるのに。

「千尋」

「……真子、わたし……」

千尋の目には、涙が浮かんでいた。
見ていられなくて、だけどしっかり向き合いたくて、唇を噛んだ。

こうなる前に気付いてあげられなかった自分に腹が立った。
私は自分のことで一杯一杯だった。自分ばっかり辛い思いをしてるような気になってた。
そんなわけないのに。

「……ごめんね、千尋」

「やめてよ!真子はなにも、本当になにも」

今度は逆に千尋が私の手を握ってくる。
それが合図だったかのように、千尋は少しずつ話し始めた。



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