君は世界を旅してる
千尋の目から、ぽたっと涙が一粒落ちた。
一粒では到底終わりそうにないほど、その目は潤んでいる。
「私、ほんとに好きだったんだけど、それって間違ってたのかな」
3人でご飯を食べたあの日、千尋はとても幸せそうに見えた。
大樹さんを好きで、好きになってもらえて幸せで嬉しい。そんな風に見えた。
「年上の人に好きって言われて、舞い上がってたのかな。かっこいいし、憧れみたいなのを、好きなんだって勘違いしてたのかな」
「そんな、」
「今となっては、大樹さんがほんとに私のこと好きなのかも怪しく思えるの。なにも、信じられない。自分が最低に思えて……」
「なに言ってんの!?」
急に大声を出した私に驚いて、千尋が動きを止めた。
ついでに涙も止まったみたいだ。
「なんで千尋が最低なの!最低はその男でしょ!?そんな男のために泣かなくていい!」
許せない。
絶対に許さない。
千尋をこんな目にあわせて、千尋にこんなことを言わせた人をなにがあっても許さない。
「警察に言おう!守ってもらえるよ。慰謝料とかもらって、逆にこっちがお金払わせてやろう!会社も倒産するよ、きっと」
「それは嫌!」
千尋が必死にそう言った。
まだ庇うつもりだろうか。そんな男、捕まればせいせいするのに。
千尋は拳を固く握った。
「大樹さんと付き合って、幸せな時間があったのは事実なの。楽しさとか、嬉しさとか、そういう気持ちをくれたのは確かなの」
「それは、そうかもしれないけど……」
「急に態度が変わったのは私にも原因があったのかもしれない。だから、」
千尋の目から、また涙がこぼれた。
幸せだったことを思い出してるのかな、と思った。
「別れられたらもうそれでいいの」
それを聞いた私は、私が千尋に出来ることが何かないか、それだけを延々と考えていた。