君は世界を旅してる
その日の放課後、急いで帰る用意を済ませて教室を飛び出した。
授業中、ずっと考えていた。
私に出来ること。
千尋が怖くて出来ないことがあるなら私が代わりにすればいい。
ずんずんと、競歩してるかのようなスピードで廊下を進む。
ちょうど4組の前に差し掛かったところで、千尋が叫ぶ声が聞こえた。
後ろを振り返ると、走って追いかけてくるところだった。
「真子、待って……!どこに行くつもり!?」
「どこにって、帰るだけだよ?」
疑いの目を向けてくる千尋にそう言って、また歩き始める。
そのとき、ちょうど4組の教室から出てきた一条くんと目が合った。
一瞬、足が止まりそうになって、代わりに息を止めた。
久しぶりのことだった。
一条くんの嘘のないまっすぐな瞳を向けられて、先に逸らしたのは私のほうだった。
何も話しかけられないまま、足早に通り過ぎることしか出来なかった。
靴を履き替えて門を出る。
いつも帰る方向とは逆に歩き出して、カバンをぎゅっと抱え込んだ。
大樹さんの大学は、ここからそう遠くないはずだ。
千尋と別れてください。
もう千尋に関わらないでください。
そんな台詞を頭の中に思い浮かべながら、あまり乗り慣れていない路線の駅を目指した。
怖い気持ちはある。
1人では心細いし、上手くいくかはわからない。
だけど何もせずにじっとしてるのは嫌。千尋の涙を見てそう思った。
竦みそうになる足を奮い立たせて、歩き続ける。
そうして駅の近くまで来たとき、名前を呼ばれた気がした。
最初は気のせいかと思ったけれど、だんだんと私の名前を呼ぶ声が近付いてくる。
その声で、呼んでいるのが誰かわかってしまった瞬間、私の足は止まった。