君は世界を旅してる
足が地面に着く感覚がして、目を開けた。ガチャガチャと、賑やかな音が聞こえてくる。
どこかの過去に連れてこられたらしい。
隣を見ると、一条くんはキョロキョロと辺りを見回していた。
「あの、ここは?」
「青木に聞いた。例の暴力男は、毎週月曜日と木曜日は会社が入ってるビルに引きこもって仕事をしてるらしいって」
「ぼ、暴力男」
「だから先週の月曜日に来てみたんだけど。これはどういうことだろうな?」
そう言って一条くんは不敵に笑ってみせた。
多分きっと、一条くんは敵に回すと恐ろしい人物だ。
同じように辺りを見渡してみる。
一体これのどこが会社のビルだというのか。
私達が立っているところは、パチンコ屋だった。
「あ!あそこ!」
大樹さんの姿があった。
友達と一緒に来ているらしく、2人並ぶようにして台に座っている。
店の中はとても騒がしい。
2人の会話が聞こえるところまで近付いて、耳を傾けた。
「おー大樹、今日も負けてんじゃん」
「うるせえなあ。お前も人のこと言えねえだろ」
ファミレスで話したときと同じ人と思えないような口ぶりの大樹さん。
私は自分の耳を疑った。
「で、女子高生の彼女はどうなの」
「千尋のことかよ?俺さ、あいつに嘘ついてんだよね。大学生なのに起業して、社長やってんだって」
「まじかよ?うける」
2人してニヤニヤ笑い合っている。
腸が煮えくり返る気分だった。起業してることさえ嘘だったなんて。
千尋は最初から騙されていたのだ。
「会社がやばくて金ないって言ったらさ、泣きそうな顔してんだぜ?かわいそーに」
「なにお前、なんでその子と付き合ってんだよ。女子高生と付き合ってるって言いたいからか?」
「決まってんだろ?思い通りになるからだよ」