君は世界を旅してる
「誰があんたなんかの言いなりになるか!」
思いっきり怒鳴りつけても、大樹さんには当然ながら聞こえない。
それが表現出来ないほど悔しくて、手のひらに爪の跡がつくのも構わずにぎゅっと手を握る。
千尋の笑顔を返してほしい。
こんなやつ、誰かと付き合う資格なんてない。
「あ、そうだ。お前にも紹介してやろうと思って、千尋の友達にも声かけといたぜ。真面目そうだったけどな」
「お?まじか。そういう真面目な子を落とすのが面白いんだよなあ」
嫌な予感がした。
つくづく腹が立つ男だ。
「今度4人で飯でも行こうぜ。あー、確か、真子ちゃんって子」
「……は?」
地を這うような声を出したのは、隣に立つ一条くんだ。
眉間にしわを寄せて、大樹さんを睨みつけている。汚いものでも見るような目つきだった。
「誰がお前らなんかに」
わたすかよ。
そう言われたように聞こえて、耳までカッと熱くなったのが自分でわかった。
すると、一気に力の抜けてしまった手を掴まれて、ぐいっと引き寄せられた。
「帰るぞ」
今までにないほど顔を近付けられて、そう言われた。
咄嗟に声が出なくてこくこくと頷く。
なにこれ、恥ずかしい。
両手を繋いで、向かい合う。
目を閉じる直前、千尋を泣かせた男の姿をもう一度目に焼き付けた。