君は世界を旅してる
あの日一条くんと久しぶりに話すことは出来たけど、それ以来も前みたいに一緒に過ごすことはなかった。
俯きながら廊下を歩くのはやめた。
すれ違ったら気付けるように。
今は、お互いほんの数秒目を合わせて、お互い気まずそうに目を逸らす、そんな感じ。
その代わりに、昼休みのたびに彼がやって来る。
「お腹空いたー」
「なんで当たり前のように一緒に食べてんの?早川くん」
「青木さんは相変わらず厳しいねー」
3人で机を囲むこの光景に、クラスの子達も慣れてきたらしい。
好奇の目で見られることはかなり減った。
それでも1人だけ、じーっと視線を向けてくる人物はいるのだけど。
「私、自販機にカフェオレ買いに行ってくる。先に食べてて?」
そう言って席を立つ。
「あ、僕も行こうかな」
早川くんがそう言い出して、同じように立ち上がった。
でもそしたら、千尋が1人になってしまう。そう思って千尋を見ると、手をしっしっとされてしまった。
「あー、2人で行ってきて行ってきて。あっちの子達と食べとくから」
教室で食べてる他の友達のところを指差して、千尋が言った。
「だって。行こっか」
「う、うん」
それならいいかと、2人で教室を出た。
自動販売機は中庭のベンチ前、階段を降りてすぐのところにある。
「真子ちゃんカフェオレ好きなんだ?」
「苦いコーヒーはあんまり得意じゃなくて」
そんなたわいない会話をしながら歩く。
2人で並んで歩くのは、そういえば初めてかもしれないなあと思った。