君は世界を旅してる

自動販売機の前には、先客がいた。

「あ、一条だ」

「えっ……」

一条くんは紙パックのコーヒーのボタンをちょうど押したところだった。
早川くんの声に気付いて、こっちを振り返った一条くんは、私達を見てすこし驚いた顔をした。

「………ふーん」

小さくそう言って、出てきたコーヒーを屈んで取る。その様子が、なんだか冷たく感じられた。

「何買うんだっけ?真子ちゃん」

笑顔の早川くんに顔を覗き込まれる。
”真子ちゃん”の部分だけ声が大きかったのは気のせいだろうか……。

「あ、えっと」

「どうせカフェオレだろ」

今度は一条くんがいつもより大きな声で、そう言った。

「せ、正解……」

当てられたことにびっくりした。早川くんもちょっと驚いてる。

「へーえ。どうしたの一条。らしくないね?」

早川くんが、一条くんに近付いていく。
向かい合うように立って、2人共すごくこわい顔をしてる。
なんだか、仲悪い……?
私の存在忘れてる……?

そういえば、早川くんは一条くんのことが嫌いなんだって、一条くんに言われたことがあった。
あのときは何かの勘違いじゃないかと思ってたけど、もしかしたらその通りなのかもしれない。

とりあえずカフェオレを買おうかと、睨み合ってる2人を刺激しないようにお金を入れる。
火花が見えるようだった。

ボタンを押すと、ガコンと音がしてカフェオレが出てくる。

「……俺への当てつけのつもりならいい加減にしとけよ」

一条くんの低い声が聞こえて、屈んで伸ばした手が止まった。

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