君は世界を旅してる
ちらっとその様子を伺うと、一条くんは本気で怒ったような表情だった。
対する早川くんも、珍しく真剣な顔つきだ。
私にはわからない話をしてると、カフェオレを取りながら思った。
もう先に教室に戻ってしまおう。
そう思って足を踏み出したとき、肩にポンと手を乗せられた。
「残念。本気だよ」
乗せられた手は早川くんのものだった。
そのまま肩をぐいぐいと押されて、一条くんに背中を向けるような格好にされてしまう。
「さ、行こ行こ!昼休み終わっちゃうよー」
「えっ、ちょっと待って、早川くんの飲み物は!?」
「いいからいいから!」
促されるままその場を離れる直前、後ろを振り返ってみる。
視線を下に向けた一条くんが、ガリガリと頭を掻いていた。
手にはコーヒーが握られている。
前は、コーヒーとカフェオレを並べて置いて、一緒に過ごしていたのに。
今はただ離れていく距離に悲しくなった。
教室へ向かう途中、早川くんが色々話しかけてくれていたけど、上の空だった私は上手く返事が出来なかった。
そんな私のことを早川くんが悲しそうに見ていたことにも、気付くことが出来なかった。