結婚の約束をしよう
本当はトイレに行きたい訳ではなくて、トイレの個室なら少しくらい涙ぐんでもバレないかな…なんていう安易な考えからだった。

私の好きな人は石崎先輩で、夢の続きを見ることができたら、私は陵に何て答えるんだろう。

そもそも9年も経っているのに、その間に一度も会う事なくずっと離れていたのに、その陵が今も私を好きだなんてさすが夢、普通に考えてそんな事ある訳がないんだから。


「も〜トイレって何でこんなに寒いんだろう〜。冬にトイレ掃除になったら最悪だよね。」

文句を言いながらトイレに入っていく深月に、私も続いた。

私の学校のトイレには全身が映るミラーが設置されていて、それは普段から身なりに気を付けていられる様にという校長先生の案だそうだ。

「深月…!」

その全身ミラーに映る私自身と目が合った瞬間、私はハッとして深月の名前を呼んでいた。

涙は、私の目の中に隠れていった。

「なにー?」

トイレの個室から、深月の少しこもった声が聞こえる。

「私、やっぱり陵に会ってるよ。」

夢で終わらせようだなんて……夢なんかじゃ、ないのに。

雨が、窓を濡らしていたーーー。


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