火恋 ~ひれん~
「あれ、オリエちゃん久しぶりだねぇ」

 海鳴り亭のマスターがピザのお皿をテーブルに置き、ニコニコと席に座ったわたしに声を掛けてくれた。

「ちょっとご無沙汰してました。これからはまた寄らせて下さい」

「いつでも大歓迎だよ」

 セルドォル専用の奥の席。今日はわたしが上座。

「じゃあ、織江ちゃんの復帰を祝って乾ぱぁいっっ!」

 由里子さんの朗らかな音頭でグラスを合わせる。

「もうほんとに織江さん、いきなりスマホは通じないし、こっちがパニクりましたよぉ!」

 今は藤君から自分のも返してもらい、そのまま二台持ちしている。

「ごめんね果歩ちゃん。わたしも慌てちゃってて、それに病院はスマホ禁止だったし」

 嘘は本当に心苦しい。

「お母さん、もう退院したんですかぁ?」

「うん、手術も成功して今は通院だけだから・・・」

 ・・・・・・わたし詐欺師の才能があるかも知れない。内心で泣きたくなる。

「良かったですねっ、元気になって!!」

「ありがと。あ・・・ほら、果歩ちゃんはソウタ君とはどうなの?」

 若干強引に話題転換。

「別れちゃいましたよ? 言ってなかったでしたっけ? 今、新しい彼氏とラブラブ中でぇす!」 

 あっけらかんと笑う果歩ちゃんに。二つくらいしか歳も変わらないのに、若いってすごい。・・・そう思ってしまったわたしは大人になったのでしょうか、渉さん・・・・・・。
< 162 / 189 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop