火恋 ~ひれん~
 テーブルの角を挟んで、相変わらずプチ酒乱な果歩ちゃんの向かいに座る野乃ちゃんは、ストレートだったボブヘアーにワンカールのパーマをかけていて、少しの間に女の子ぽく変身している。

「野乃ちゃん、その髪型にしてほんとに正解だね」

 わたしが褒めると、はにかみながら口ごもる。

「織江さんに云ってもらえると嬉しい・・・です」 

「可愛くなったし、スカートも似合うよきっと」

 割とジーンズスタイルが多い彼女。痩せ型で凹凸も・・・だけれど、逆にフワフワした服も可愛いかも知れない。

「・・・織江さん。今度雑誌とか見て、合う服を選んでくれますか・・・?」

「うん、もちろん!」

 この変化はもしかして牧野君・・・だろうか。
 またセルドォルに戻った彼へのアピールなんだとしたら・・・頑張って欲しいな。思わず心の中で声援を送る。

 話しかけられない限り、黙々と飲み続ける牧野君もいつもどおりで。変わらない慣れ親しんだ空気に、わたしの顔もほころびっぱなしだった。
 




 
 10時半を過ぎてお開きになり、マスターに挨拶しながら全員で海鳴り亭の外へ。

「うわぁ織江さん、見てくださいよぉ! なんかぁ、すごい渋くてカッコいいひと立ってますよぉっ」
 
 ご機嫌な果歩ちゃんが怪しい呂律で顔を寄せて来て、わたしにこっちを見ろと指を差す。
 その先には。海鳴り亭の入り口から少し離れた路上に停まる、黒の高級セダン。脇に佇み、悠然と煙草をくゆらせている長身のスーツ姿の男性。
 
「あっれぇ、ヤッホー相澤くーんっっ」

 横から響いた由里子さんの能天気で明るい声に。わたしは石の塊と化して。・・・いた。
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