火恋 ~ひれん~
 神社を後にして、お蕎麦屋さんで早めのお昼を軽く済ませる。
 高速道路に乗り、途中、由里子さんのお土産を買う目的も兼ねてサービスエリアにも寄った。
 お目当てのスイーツは冷凍で宅配も出来ると店員さんから聴くと、渉さんはセルドォルの全員でも食べきれないんじゃないかって量を、さっくりお店宛てに宅配依頼してしまった。
 彼なりの心遣いなのだ。わたしの急な休みで少なからず迷惑を掛けた事への。

 それからマンションに着くまで、気が付いたらわたしは渉さんの膝枕で眠り込んでいて。最後の最後まで、渉さんとの時間を一秒だって無駄にしないようにって、あれだけ睡魔と必死で闘ったのに。どうしていつの間に寝てるの・・・・・・。

 起こされて、本当にマンションの地下駐車場だと判った時は、ショックのあまり泣きそうだった。
 渉さんはやっぱり、そのままどこかに向かうようだった。

「・・・上まで送ろう」

 わたしを助けてくれたあの夜もそう云って。アパートの2階の部屋まで貴方は送ってくれた。もしかして少しでも長く、・・・と思ってくれたのかしら、あの時も。
 広くはないエレベーターの中で、わたしの肩を抱いたままの渉さんの横顔を見上げる。視線に気付くと、目を細めてわたしを見返す癖。
 顔が近付くから目を閉じる。唇に吐息が触れた瞬間に、柔らかく舌が入り込んで来る。扉の前には坂下さんと藤君。13階まであっという間で。

「・・・若頭代理、その辺で」

 到着の電子音と、停止の軽い震動。坂下さんの冷めた声。
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