火恋 ~ひれん~
8章
今年の桜は例年より少し開花が早かった。
そろそろ満開を迎える頃だと、テレビニュースがお花見のピークを予想していた。渉さんと、近くの桜をもう一度一緒に見たいと思っていたけれど。・・・やっぱりそれは叶いそうに無かった。
まだ春浅い3月の終わり。海鳴り亭で牧野君の送別会を開いた。閉店時間を少し早め、由里子さんも含め全員出席で明るく始まる。
「牧野君、本っ当にっ4年間お疲れさまでした! 若いうちじゃないとね、チャレンジ出来ない事もいっぱいあるから、前見てどんどん頑張ってね!」
「・・・っス」
由里子さんの乾杯の挨拶に、少し照れもあるのか牧野君の返答は短く。とても彼らしい。
「じゃあ、牧野君の今後の活躍と健闘を祈って乾ぱーいっ!」
「牧野さん、お疲れサマでしたぁっ」
「・・・お疲れさまでした・・・」
「牧野君、お疲れさま・・・!」
由里子さん、果歩ちゃん、野乃ちゃん、わたし。全員とグラスを合わせてから牧野君はジョッキの発泡酒を一気に半分まで呷った。
「好い飲みっぷりねぇ、牧野君っ」
ほらほら、もっと飲みなさい、と由里子さんは相変わらずテンション高め。
上座の牧野君から向かって右側の席にわたしと野乃ちゃん、反対側が由里子さんと果歩ちゃんで。
わたしは奥の野乃ちゃんを気にしつつ、果歩ちゃんの暴走をいつでも止められるよう警戒態勢。何しろ果歩ちゃんは、お酒が入ると色々なリミッターが解除されてしまう子だから。
「牧野さん、牧野さんっ」
・・・ああもう始まってる・・・。
「お店辞めてぇ、どーすんですかぁっ? 全っ然教えてくんないじゃないですかぁっ、最後なんだから教えてくださいよぉ~」
「・・・・・・・・・」
「織江さんだって、訊きたいですよねぇっ?!」
「あー、うん。まあでも牧野君は牧野君でやりたい事があるって、それでいいんじゃない?」
「えー、それはそうかもだけどぉ」
「きっといつか教えてくれるわよ。・・・ね、牧野君?」
「・・・まあ」
ダンマリだった牧野君は仕方なさそうに、わたしに合わせてくれた。
「もぉ~牧野さん、最後まで秘密主義ぃ~っ」
ぷう、と頬を膨らませ、果歩ちゃんはカシスソーダをぐっと飲み干す。マスターおかわり~とオーダーすると、牧野君に向き直り、怪しい感じで上目遣いに見上げて言った。
「今日はゼッタイ吐かせますからね~っ、覚悟してくださいねぇっ」
当の牧野君は、何も聴こえないフリで。まるでいつもの飲み会みたいに。
湿っぽい餞(はなむけ)になるよりは、らしくていいのかも知れない。ともすれば、わたしが一番感傷的なのかも知れない。・・・から。
そろそろ満開を迎える頃だと、テレビニュースがお花見のピークを予想していた。渉さんと、近くの桜をもう一度一緒に見たいと思っていたけれど。・・・やっぱりそれは叶いそうに無かった。
まだ春浅い3月の終わり。海鳴り亭で牧野君の送別会を開いた。閉店時間を少し早め、由里子さんも含め全員出席で明るく始まる。
「牧野君、本っ当にっ4年間お疲れさまでした! 若いうちじゃないとね、チャレンジ出来ない事もいっぱいあるから、前見てどんどん頑張ってね!」
「・・・っス」
由里子さんの乾杯の挨拶に、少し照れもあるのか牧野君の返答は短く。とても彼らしい。
「じゃあ、牧野君の今後の活躍と健闘を祈って乾ぱーいっ!」
「牧野さん、お疲れサマでしたぁっ」
「・・・お疲れさまでした・・・」
「牧野君、お疲れさま・・・!」
由里子さん、果歩ちゃん、野乃ちゃん、わたし。全員とグラスを合わせてから牧野君はジョッキの発泡酒を一気に半分まで呷った。
「好い飲みっぷりねぇ、牧野君っ」
ほらほら、もっと飲みなさい、と由里子さんは相変わらずテンション高め。
上座の牧野君から向かって右側の席にわたしと野乃ちゃん、反対側が由里子さんと果歩ちゃんで。
わたしは奥の野乃ちゃんを気にしつつ、果歩ちゃんの暴走をいつでも止められるよう警戒態勢。何しろ果歩ちゃんは、お酒が入ると色々なリミッターが解除されてしまう子だから。
「牧野さん、牧野さんっ」
・・・ああもう始まってる・・・。
「お店辞めてぇ、どーすんですかぁっ? 全っ然教えてくんないじゃないですかぁっ、最後なんだから教えてくださいよぉ~」
「・・・・・・・・・」
「織江さんだって、訊きたいですよねぇっ?!」
「あー、うん。まあでも牧野君は牧野君でやりたい事があるって、それでいいんじゃない?」
「えー、それはそうかもだけどぉ」
「きっといつか教えてくれるわよ。・・・ね、牧野君?」
「・・・まあ」
ダンマリだった牧野君は仕方なさそうに、わたしに合わせてくれた。
「もぉ~牧野さん、最後まで秘密主義ぃ~っ」
ぷう、と頬を膨らませ、果歩ちゃんはカシスソーダをぐっと飲み干す。マスターおかわり~とオーダーすると、牧野君に向き直り、怪しい感じで上目遣いに見上げて言った。
「今日はゼッタイ吐かせますからね~っ、覚悟してくださいねぇっ」
当の牧野君は、何も聴こえないフリで。まるでいつもの飲み会みたいに。
湿っぽい餞(はなむけ)になるよりは、らしくていいのかも知れない。ともすれば、わたしが一番感傷的なのかも知れない。・・・から。