浅葱の空へ
始まり
見渡す限りに広がる浅葱色の空とその下をゆったりと歩く男の人。
突然その人はくるりと振り返って、私に手を差し出すの。
私はその手を取って、その人の隣をやっぱりゆったりと歩く。
「……だよ」
途中で男の人が私に向かって何か言うけれど、私には言葉のほんの最後の音しか聞こえない。
『なんて言ったの?』
そう聞こうとするけれど私の口は意思に反してピクリとも動いてくれなくて、そのまま微笑む男の人に微笑み返すだけ。
それから"いつものように"いきなり場面が変わって、どこかの屋敷の一室に私はいた。
目の前には布団が敷かれ、青白い今にも死んでしまいそうな顔をした、浅葱色の空の下で私に手を差し伸べた男の人が横たわっていた。
「…先生からの頼りは…?」
「…来ていませんよ」
男の人の痩せた手を握りながら私は答えた。
それと同時に、
「ごめんなさい。もうあなたの先生は……」
そんな感情が頭の中に直接流れ込んでくる。
発する声は私だけれど、まるで私ではないような、別の誰かの視界を通して景色を見ているような、とても不思議な感じ。
そしてまた、場面が変わった。
やっぱり男の人は布団に横たわっている。
違うとすれば、私が握る男の人の手が前よりも細くなって酷く衰弱しており、私は嗚咽を漏らしながらボロボロと涙をこぼしていること。
「…やだっ行かないでっ…」
男の人の手を握ったまま、私はその痩せこけた体にすがりついた。
酷く冷たくて、死の感触がした。
「ごめんね……さようならだ…」
彼はそうつぶやいた後にもう一言
「…い……たよ」
掠れる声で囁いて、逝ってしまった。
「いやぁぁっ……」
部屋には私の泣き叫ぶ声だけが虚しく響くだけ。
そして私の視界は徐々に暗転していき、やがて光が差し込んでくる。
「……何も出来なかったっ……!!」
その虚無感だけが強く心に響いた。