浅葱の空へ
「_____てわけで逃げてきた。」
「なるほどねぇ…」
教室に着くなり江都がものすごい勢いで話すこと20分。
話をまとめると、一か月前に迎えた江都の17の誕生日を境にお祖母様からのお見合い攻撃が悪化して、今日はとうとう朝からお見合い話を持ち出され、耐えかねて家を出てきた…ってことらしい。
「確かにお母さんはごく普通のサラリーマンのお父さんと結婚したよ。だけど誰だって好きな人と結婚したいって思うものでしょ?職業だってなんで縛られなくちゃいけないのよ!?
私は別に日舞をやりたくてやってるわけじゃない。好きな人だっているんだもん。」
江都のご両親は、周りの…というよりも、三滝家当主である江都のお祖母様の反対を押し切って結婚したんだって。
しかも次期当主に決まっていた江都のお母さんはこっそり就活して超一流企業を受けたら見事採用。
未だにバリバリのキャリアウーマンをしている。
おかげで江都のお祖母様はちょーお怒り。絶対女の子を産んでその子は本家で育てるとまで言ったらしい。
現に江都はご両親とは別々に暮らしていて、もはやお祖母様に育てられたようなもん。
江都の家に遊びに行く度に彼女のお祖母様には会うけれどホントに怖い。
何がって聞かれると出てこないけど、少なくとも私ならあの人の元での生活なんて耐えられないと思う…
『お祖母様の前で泣いたり、ましてやお母さんとお父さんに会いたいだなんて絶対に言えないもん…蓮華にしか言えないよ…』
普段あんまり弱音を吐かない江都が、私の前ではよく泣いた。
お母さんとお父さんに会いたい…って。
「最近おばさんとおじさんには会わせてもらえてるの?」
「誕生日の時に会って以来かなぁ」
「お祖母様のお見合い攻撃については知らないわけね…」
「多分ね。
まぁこんな感じなので蓮華さんや。
今日一晩泊めてくださいっ!!」
「いーけど着替えは?」
「バッチリ」
ガサゴソと鞄から誇らしげに家出セットをだす江都さん。
めっちゃドヤァって顔してるからなんとなくバシッと頭を叩いてみた。
「痛いよ何すんの!!」
怒られました笑
「そういえば今夜も任務あるんだよね?」
「ある。父様が招集かけてたから。」
「んじゃ丁度いいね。」
キーンコーンカーンコーン
1時間目開始のベルが鳴った。
「ほら江都。早く座んないと怒られるよ。」
「わかってるって。また後で。」
ヒラヒラと手を振った江都は制服のスカートの裾をヒラリと翻して自分の席へと向かった。