青藍のかけら
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放課後に、部室に行くのはもはや習慣のようなものだ。
各サークルに与えられている部室の集まる建物は大学の敷地内でも端のほうにあり、わりと静かなところが気に入っている。
毎日集まる必要もないお気楽サークルで、部室に来る人間も少なく、部室も静かなことが多い。
習慣にまでなってしまったのは、また別の理由だが。
「ああ、榊か」
ドアを開けて聞こえてきたのは、低く耳に心地よい、きれいな声。
「‥深澤さん」
今日は早めに来たと思ったのに、先客がいたらしい。
深澤透(フカザワ トオル)は開け放った窓の近くで、パイプ椅子に座り足を組んで本を読んでいた。
「もう講義終わり?」
本から顔を上げた彼と目があって、トクンと心臓が跳ねるのを感じた。
「‥はい。今日は四限までだったので。深澤さんは‥」
「今日は午前だけ。四年は気楽だな」
ふっと笑った彼に、また心臓がざわざわと騒ぎ出す。
今日は機嫌がいいらしい。
無口・無愛想の鉄仮面、で通っている彼が笑顔を見せてくれることは少ない。
私としては、彼はそう言われるほど、笑顔がないとも思えないのだが。
以前、由美にそう言ったらなんとも言えない微妙な顔をされたのを思い出す。
‥あれは、どういう意味だったんだろう?
未だによくわからない。