リアルな恋は落ち着かない
そういうと、五十嵐くんはちょっとむくれて黙ってしまった。

私は、その表情に不安になって、少し言葉を継ぎ足した。

「・・・憧れてたけど、ほんとに憧れていただけだから。不倫したかったわけじゃないし・・・。

言われてはっとしたのもあるんだけど、今はもう、そういう感情も自然となくなったっていうか」

五十嵐くんに、まだ課長が好きだと誤解されたくないと思った。

上手く言えなかったけど、私は自分なりに必死に彼に言い訳をした。

運転中の五十嵐くんは、そんな私に一瞬目を向け、そしてすぐに視線を戻してぽつりと言葉をつなぎだす。

「・・・じゃあ、今は好きな男はいないんですか」

やけに静かな声音だった。

私はドキリと、横に座る彼を見つめた。


(好きな人・・・)


薄々気づきかけていた。

けれどもまだ自分の中で、芽生え始めた感情だった。

私は気持ちに整理がつかず、彼の問いに「うん」と答えた。

しばしの沈黙。

ほんの数十秒間だろうけど、私には、とても長く感じてしまった。

「・・・なら、オレはどうですか」

前を向いたまま、彼が無表情に呟いた。

私は胸をドキンと鳴らし、聞き返すように彼を見た。
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