リアルな恋は落ち着かない
それから、一緒に電車を乗り継いで、五十嵐くんは傘を差しながら私を家まで送ってくれた。

ずっと肩にかけられていた大きなジャケット。

マンションのエントランスに着いたところで、私は彼を見上げてお礼を言った。

「ありがとう、明日も仕事なのに・・・。これ、クリーニングして返すから」

ジャケットの襟元を掴んで言うと、五十嵐くんは思い出したように「ああ」と呟く。

「いいですよ。オレが勝手にかけたんだし」

「でも、なかも濡れちゃったから」

「いや、いいです。ほんと、安物だし」

そう言って、彼はひょい、と私の肩からジャケットを取る。

今まで包まれていた重みがなくなり、同時に、肌が急にヒヤリと冷えた。

「でも・・・」

「いいから。へんなオヤジにつかまらないうちに、早く家に帰ってください」

「・・・つかまるって・・・。もう、ここマンションだよ」

「マンションでも。そんな恰好見られたら、部屋に連れてかれますよ」

「・・・大丈夫だと思う」

「大丈夫じゃないから言ってるんですよ。橘内さん、オヤジキラーだし」

「・・・」

最後の言葉にむっとした。

なんかわからないけどむっとした。

「・・・じゃあ、帰る・・・」

「はい」

ほっとしたように笑う彼。

その表情に、むっとしていたはずの私は、即座にドキリと胸を鳴らした。
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