リアルな恋は落ち着かない
「・・・どういう状況?」
 
恐ろしく低い声で、彼が私に問いかける。

元々、邪な気持ちはなかったけれど、頭ポンをされた手前、後ろめたさが生じてしまった。

「カフェラテ買って、すぐに戻ろうと思ったんだけど」

「うん」

「隣、『どうぞ』って言われて、断るのも失礼な気がして・・・」

「・・・失礼じゃないだろ」

柊吾が「はあ」、とため息をつく。 

「課長には、気をつけろって言っただろ・・・。ほんとに、油断も隙もないっていうか。今度されたら、セクハラって言っていいんじゃないの」

「い、いや、それは大げさだよ」

「大げさじゃないだろ・・・。優里菜が言わないなら、オレが言うけど」

「えっ」


(そ、それは、ますます大事になりそうな気が・・・)


「あの、大丈夫・・・。自分で言う」

「ほんとに?自覚ないからあやしいんだけど」

「・・・」


(確かに、自覚してないと言えないけど・・・)


私が悩むと、柊吾はまたため息をつき、ひと呼吸置いて自販機の方へ身体を向けた。

そしてコーヒーを買って取り出すと、課長がいた位置に腰かけて、私の頭にポンと手を置く。

「!」

ドキンと胸が高鳴った。

課長の時とは、明らかに違う胸の音。

さっきは、驚いたゆえに鳴った心臓だったけど、柊吾にされると、途端に甘い音がする。
< 297 / 314 >

この作品をシェア

pagetop