リアルな恋は落ち着かない
「ここでいいかな。料理もワインもおいしいんだ」

「はい・・・」


(本当に、あのまま一緒に来てしまった・・・)


阿部課長が連れて来てくれたのは、会社から少し離れた場所にある、ビルの地下一階にあるちょっとこじゃれたダイニングバー。

イタリアンテイストなのか、フレンチテイストなのか、よくわからないけれど、とにかくやけにおしゃれなお店だ。

この短時間で予約をしておいてくれたのか、店に入り課長が店員に名前を告げると、一番奥の落ち着いた席に私たちは案内された。

どこの席もひとグループづつ、個室感が漂うようにシースルーのカーテンで隣と仕切られていた。


(なんか、みんなデートっぽい・・・)


女性グループもいるものの、お客のほとんどはカップルだった。

私と課長はどう見えるだろう、と周りの視線が気になった。

「好きなもの頼んで。今日は本当に助かったから。お礼だから気にしないで」

「はい・・・」

頷くものの、こじゃれたメニューはよくわからないし、一対一で男性に奢ってもらうことなんて、今日が生まれて初めてだ。

本当に好きなものを頼んでいいのか、遠慮すべきところなのか、私は振る舞いがよくわからない。

メニューを見ながら固まっていると、課長は見かねたようにふっと笑った。

「なんでもよければ適当に頼むけど」
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