苦手な言葉レンタルします!
川崎は、後一月のレンタル期間を残している<距離を縮める言葉集>を、返却するために「言葉」レンタルショップを訪れていた。

「いらっしゃいませ~」
相変わらず愛想の良い店主の笑顔が、最近川崎には打ち出の小槌のように思える。
「ちょっと早いんだけど、コレを返して次を借りたいんだけど・・・」
「次と云うと、いよいよプロポーズを決心しましたか?それならいろいろと良い「言葉」をご用意してますよ!」
店主は嬉しそうに川崎を見た。
「実はね、こんな風に「言葉」を借りるだけで事が上手く運ぶんだったら、ひとつ高望みかもしれない相手にチャレンジしてみようかと、考えてるんだけど。求めよさらば与えられんなんて言葉もあるしね」
川崎は、本音を口にした。

「そうですか~、でしたらまた最初から他の女性とやり直しですね?」
「そういうことだけど、俺にも一応良心の欠片ぐらいはあるからさ、今の彼女とね。そうなるべく穏便に、ちゃんと終わらせてからね・・・」

山口佳代に対して不満があるわけじゃない、人は往々にして、今まで上手く行かなかったことが上手く行き始めると、ついつい欲をかきたくなる生き物だ。身の程知らず、そんな言葉が、今の川崎にピッタリ当てはまるのかも知れない。
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