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第一章 川崎俊幸

0日目




山々に囲まれた田舎町。

抜ける様に蒼い空。

見渡すと目に入るのは田園風景。
この町内で一番大きな商店街も寂れた印象を受けた。

山に向かって少し歩けば、麓から流れる川のせせらぎと、蝉の大合唱が聞こえてくる。


そんな町。


俺は深呼吸し、十年振りにその町の空気を肺一杯吸い込んだ。

爽やかな空気が、鼻と喉を抜ける。

空気がうまい。

夏独特の、熱された空気の息苦しさも感じなかった。


今まで住んでいた街は、空は灰色で、四方をコンクリートで囲まれた何とも薄暗い街だった。

車や人がやけに多く、そのぶん空気も汚い。

確かに交通の便は良いし、欲しい物はほとんど近場でも買えた。


だが今、その便利な街と、数十km離れた市内に行かなければ欲しい物も買えず、そこに行く為の電車も一時間に一本しかないこの町とで、住むんだったらどちらが良いかと聞かれたら、都会育ちの俺でも迷ってしまう。

それくらいこの町は新鮮で美しかった。


だから今日、住み慣れた街から、この田舎町に越して来た事も憂鬱ではなかった。
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