Fw:添付画像あり
この町に越してくる事になったのは、母親の再婚からだった。
十年前両親は離婚して、俺は母親に引き取られた。
その時まで俺はここに住んでいたらしいけど、全く覚えていない。
その当時七歳だったというのに、この町の事はおろか、それまでどんな生活を送ってきたか、どんな家族だったか、どんな子供だったか……
要するに七歳までの記憶の全てがすっぽりと抜けてしまっている。
その理由は考えてもどうせ分からないのだから、深く考えたりはしない。
これが俺の性格だ。
「俊幸君、お父さん達が呼んでるよ」
背後から鈴の音の様な澄んだ声に名前を呼ばれ、振り返った。
「あぁ、今行く」
俺がそう言って笑い掛けると、その声の主は、はにかむ様に笑った。
「俊幸君と一緒に暮らせるなんて、嬉しいな」
鈴の声をした美優(ミユ)がそう言って少し俯くと、栗色の艶やかな髪がサラサラと頬に掛かった。
セミロングの髪から覗くその頬は赤くなっていた。
「俺も、嬉しいよ」
その髪を耳に掛けてやると、美優は顔を上げ、嬉しそうに微笑んでえくぼを作った。
川上から流れてきた、名前も知らない小さな白い花の様だと思った。