Fw:添付画像あり

その姿がゆっくりと一歩ずつ近付いてくる。

その度、ゴキッバキッと、何かが折れる様な音がし、影の四肢がだらりと有り得ない方に曲がる。

昼間感じた、あの錆びた鉄の様な臭いが鼻をついた。

背中が嫌な汗でぬめる。

美優を抱いた腕に鳥肌が立った。

口の中はカラカラに渇き、唾を飲み下す音がゴクンと響いた。


影は俺を見下ろす様に俯き、口許だけが月の光に照らされ、ニタリと笑っていた。

美優を守ろうと抱く腕に力をこめようとしたが、やはり力が入らない。

錆びた鉄の臭いがこの部屋に充満している様で、もうその臭いしか感じられなかった。

影が手をのばす。

ポタ、ポタ……と、何かがその腕から落ち、美優のパジャマや顔を黒く染めていった。


――血だ。


その腕が、美優の細い首に掛かる。

俺は息を飲み、顔の見えない影を睨んだ。

ギリギリと音をさせ、首を絞める力が強くなり、美優が苦しそうな表情をした。

だが美優は目を開けない。

「……っ!……っっ!」

俺は必死に美優を起こそうと、その影に抵抗しようと声を絞り出したが、声帯が震える事は無く空気だけが漏れた。
< 59 / 66 >

この作品をシェア

pagetop