見えちゃうけど、好きでいて
会社に到着した正宗は、スーツを正し建物の正面でしばらくビルを見上げていた。
「正宗様?」
源蔵は、怪訝な顔で正宗の横顔を見ていた。
大きくため息をつくと作り笑顔を作って一歩前へ出た。
「あ、ご、ごめんなさぁい」
目の前に自転車に乗った女が通り過ぎていった。
一歩前へ出たまま、目をつぶり通り過ぎていった方向へ目をやった。
黒髪のボブ、緑のリュックサックを背負ってヘッドホンをした女。
正宗には縁のなさそうな女だった。
「大丈夫ですか?危ないですね……」
源蔵も、通り過ぎていった女のほうを見ていた。
正宗は無言でうなずき、ビルの中へ入っていった。
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