好きだと言えたら[短篇]




「…朱実が、好きだ。」

ピタっと朱実の足が止まる。そして、ゆっくりと、本当にゆっくりと俺の方に体をむけ言葉を漏らす。

「う…そ。」


口に手をあて
真っ赤な瞳で俺を見つめる。

そして…


「いつも冷たかった、いつも寂しかった。哲平は、私のことなんて全然見てなかった。…辛かったんだよ?」


辛かった。
その一言に胸が抉られるような気持ちになった。


「…見てなかったんじゃなくて見れなかったんだけど。…緊張しすぎて。」

でも結果的に
朱実を傷つける羽目になった。


一生の後悔だな、これ。



「どう接していいか分からなくて、修輔とかいう男に勝手に嫉妬して?…最後には好きな女に逃げられて、こんなみっともない俺、自分でも初めて見た。」

「…っ」

「こんな、みっともない姿曝け出してでもお前のこと…諦められないんだけど。」




そう。
無理、なんだ。


そして、
ゆっくりと朱実に手を伸ばす。




「き、キスしかしてくれなかった…っ」

…なっ
そ、それは

「…出来るかよ、こうやって触れるだけでも心臓壊れそうなのに。」


触れるだけでドキドキする。心臓が壊れるんじゃないかってくらいドキドキすんだよ。






「バイバイとか、言うなし。」

「…哲平」

「頼むから、朱実。」



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