好きだと言えたら[短篇]








「哲平…好き。」








ぎゅっと抱きしめ
朱実の方に顔を埋める。


その時聞こえた声。
はっきりと、確かに朱実の声でそう呟かれた。




「…当たり前だろ。」



内心、滅茶苦茶焦ってるけど、今、こうして朱実が俺の腕の中にいること。好きって言葉をくれるだけで俺は…



涙で赤くなった頬に手を伸ばす。絡む視線、そして潤んだ瞳。



瞼が閉じた瞬間が合図。
俺はゆっくりと唇を重ねた。





「…ん」


深く、何度も朱実にキスを落とす。口内を犯すように、朱実の苦しそうな甘い声が俺の理性を壊す。







「…家、泊まるだろ?」

イヤイヤ言う
朱実を何とか説得して


繋いだ手。




そして真っ赤な朱実に言ってやった。
もう、絶対に…

「…逃がすかよ。」














いつもはバイクだけど
今日は歩き。

2人で手を繋ぎ、夜道を歩く。



あ…そういえば。
忘れてたわ。完全に。


「…修輔だっけ?アイツ、誰?」


そう、
あの電話の相手。
誰だ?


朱実からの"大好き"の言葉を貰った奴の正体は。




「お、お兄ちゃん。」




………。
はい?



呆気ない返事に一気に肩にかかっていたものが無くなった。ただの兄貴かよ…。俺のあのイライラは一体…。



「だ、だから、お兄ちゃんだって。…哲平が初めてだもん。付き合うの…」



そして、次の言葉に俺は地獄から一気に天国に上ったような、そんな気持ちになった。








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