好きだと言えたら[短篇]
「…土曜なら暇だけど。」
「う、ううん。平気…平気だよ。」
…平気って何?
会わなくても良いってこと?
チラリと朱実の様子を伺うように視線を送ると、少し離れたところで俺に背を向け夕飯の後片付けを始めていた。
微かに震えるその肩に
俺はこの時、気付いていなかった。
「あっそ。」
「…うん。」
それっきり、
朱実からの言葉が途絶えた。
最近、本当に自分が嫌になる。
優しくしたいのに出来ない。一緒にいたいのに素直になれない。笑わせてあげたいのに…悲しい顔しかさせてやることができない。
好きなのに。
面と向かって、気持ちを伝えたことも…ない。
「…最低じゃん、俺。」
朱実と出会ったのは
無理やり連れて来られた合コン。
そこで…馬鹿みてぇだけど、
朱実に一目惚れして
その日のうちに家に入れた。
ほんのり照れた赤い頬。
不安そうなその瞳。
「朱実」
そして気が付いた時には、朱実の唇を奪っていた。
何度も何度も
苦しそうにしている朱実の唇に熱いキスを落とす。
「んっ…」
甘い声と、熱い唇に
俺は自然と声を漏らした。
「…好きなんだけど」
果たしてこの言葉が彼女に届いていたのか不明だが、俺は小さな声でそう朱実に呟いた。
それからだ。
「…学校終わったら家来て。」
「うっ、うんっ!」
毎日のように朱実に電話をするようになった。
数回のコールで
朱実の声が耳に届く。
少し照れた、その声。