好きだと言えたら[短篇]
この声を聞くと、辛い仕事も切り抜けることが出来た。俺は、朱実に救われていたんだ。いろんな意味で。
「…ただいま。」
「お、おかえりっ!」
会社から帰り、一番最初に確認するのは自分の部屋に明かりがついているかどうか。
ついているのを確認すると、
自然に笑みが毀れた。
そして、ドアを開けると、
笑顔の朱実が出迎えてくれた。
「…哲平、今日何に食べたい?」
ちょこちょこと
俺の後ろを着いてくる朱実。
…やべ。
顔、見れねぇし
「別、何でも良いけど。」
その姿があまりにも可愛くて、俺はまた背を向ける。照れた顔を見せたくなくてそっけない言葉をかける。
「…ハンバーグは?」
少し間が開いた後、
朱実の声が耳に届く。
…あぁ、俺最悪。
んで、いつもこうなんだよ…。
「だから、何でも良いって。」
ネクタイを外しながら背中で朱実の声を受け止める。
朱実の前だと
どうしてもいつもの俺でいられなくなる。
…優しい言葉1つ
掛けてやることも出来ない。
「…うん。ごめんね。」
そして、微かな声で
朱実はそう呟くとリビングへと消えた。
「…ったく、どうしろってんだよ」