~悪魔執事とお嬢様~


「ハァ。今何時……いえ、いいです。」



私は上着のポケットから時計を出した。

ヒラヒラとしたこっ恥ずかしいレースを
隠す、今日一番役に立つ衣服だ。


右手に持っていた杖を左手に持ちかえ、
時計を見ようとした。



「すみませーん!」



ーーバッ!!


突然、少年が私にぶつかり走っていった。


一瞬で顔は覚えられなかったが、
とても汚い服を着ていた。

貧民街の人間か。

黄色いシミのついた帽子に、茶色い
くすんだ服、泥のついたズボン、

そして、傷がつき、すり減った靴底の
黒い靴を履いていた。


しかし、貧しい身なりのその服装には
似合わず、手には金色に光る金物を
持っていた。

それは私の時計だった。



「やられたな。」



独り言のようにポツリと私は呟いた。

本当に誰にも聞こえないような音量で。



「取り返しましょうか?」



「いえ、ここでは目立ちます。」



「…I got it,mine lady.」



私はシリウスに言われた通りの道を進み、
少年が向かうであろう道を先回りした。

< 119 / 205 >

この作品をシェア

pagetop