~悪魔執事とお嬢様~
「ハァ。今何時……いえ、いいです。」
私は上着のポケットから時計を出した。
ヒラヒラとしたこっ恥ずかしいレースを
隠す、今日一番役に立つ衣服だ。
右手に持っていた杖を左手に持ちかえ、
時計を見ようとした。
「すみませーん!」
ーーバッ!!
突然、少年が私にぶつかり走っていった。
一瞬で顔は覚えられなかったが、
とても汚い服を着ていた。
貧民街の人間か。
黄色いシミのついた帽子に、茶色い
くすんだ服、泥のついたズボン、
そして、傷がつき、すり減った靴底の
黒い靴を履いていた。
しかし、貧しい身なりのその服装には
似合わず、手には金色に光る金物を
持っていた。
それは私の時計だった。
「やられたな。」
独り言のようにポツリと私は呟いた。
本当に誰にも聞こえないような音量で。
「取り返しましょうか?」
「いえ、ここでは目立ちます。」
「…I got it,mine lady.」
私はシリウスに言われた通りの道を進み、
少年が向かうであろう道を先回りした。