~悪魔執事とお嬢様~
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ーータッタッタッタッ
「へっ、ここまで来れば安心だぜ。」
息を切らしながら、少し小さい声で
少年はいった。
速度を落とし、止まり、ゼエゼエと膝に
手を当て苦しそうに喘ぐ。
「遅かったじゃないですか、坊や。」
少年はシリウスの見立て通りにこちらへ
来た。
少年を待つまで、五分はたっていた。
「てめぇ、なんでここに…」
私たちがいることにとても驚いたのか、
鳩が豆鉄砲でも食ったような顔だった。
「返しなさい。今返せば見逃しましょう。
言われた通りにしないのなら、
ヤードへ引き渡します。」
ヤードとは、我が英国の警察だ。
正直引き渡すどころか会いたくないが、
この少年の動きかた次第だな。
2、3度会ったことがあったが、目付きが
鋭く、態度が冷かった。
あまり好きにはなれない。
「うるさい!
こうでもしないと俺ら貧民街の人間は
生活できないんだよ!どけ!」
どこに隠し持っていたのか、彼はナイフを
取り出した。
どうしようもないほどにクズだ。
なぜこいつらは何もしないでこういった
真似をするのだろうか。
身分は身分だ。仕方がない。
だが、低賃金でも雇ってもらうことが
できるだろうに。
もちろん命に関わるような煙突掃除の
仕事くらいしかないが、
それでも捕まったり
ワークハウス(救貧院)に入れられる
よりはましだろう。
第一、私の相手なんかせずに時計を
返して新しい獲物を見つければ済む話だ。
「時計を返せば我々も退く。」
「無理だね。こいつは俺にだってわかる。
売ったらすげえ値段のはずだ。」
ああそうだろうな。
なにしろあの懐中時計は純金だし、
裏面は精密な作りがされている。
遺品のなかでも高価なものなどは
受け継いでいたが、
あれもまたその類いのものだった。
それをあんな貧乏人の手に盗られるのは
耐え難かった。
「君は、
Pardoning the bad is injuring the good.
(悪人を許すのは善人を害するに等しい)
という言葉を知っていますか?
これはイギリスの格言です。
まさにその通りだと私は思います。
君のような悪人を逃したら、
善人に危害が及ぶ。」