~悪魔執事とお嬢様~
「だからなんだ!
こうでもしないと、悪人にでもならないと
食っていけないんだ。
これを売るのは俺の為だけじゃない。
仲間も家族も食べさせるためだ!」
少年は走ってきた。ナイフを私に向けて。
ここは狭い路地だったせいか、人気が全く
なく、人を襲うのには絶好の場所だった。
「シリウス。」
「I got it,mine lady.」
少年はなんの策略もなくただ走っていた。
走り疲れて少年の集中力が途絶えた
せいだろうか、
それともシリウスの行動が速かったのか。
シリウスがいち早く動き、少年の腹に
手袋をはめた拳を食らわせた。
ーーグッ!
「おえっ!」
腹を押し出される音が一瞬なると、
少年は何かを吐き出すかのような
声を出した。
吐きはしなかったが、少年はうずくまる。
よほど強く当てられたのだろう。
息を吸おうとしても充分には吸えず、
過呼吸になっていた。
「ハアッハアッハアッハアッハアッ……ぅっあ
ハアッ……」
「シリウス、あまりやり過ぎるな。」
もう言っても遅いが。
「ご安心を。もうじき彼は喋りますよ。」
本当だといいがな。
こんなやつを待つ為だけに時間を
使いたくない。
「エホッ、エホッ、うェッーー!」
少年の呼吸は先程よりはマシになった。
私は少年の前に立ち、話せそうに
なるまで少し待つ。
「もう喋れますか?
それとも……まだこの汚い地面へ溝鼠の
如く這いつくばるか?
とはいえその方が君達らしいがな。」
自分が根っからの差別主義者だと
いうことを改めて思い直した。
こういう環境に生まれたからだろうか。
自然と彼らを見下していた。
だが間違っているとも思えない。
そういう時代だ。
寧ろ差別主義をどうだこうだと
感じる私の方が特殊なはずなのだから。
「俺らをバカにすんのも、ハァッ、
いい加減にしろッッ!」
「馬鹿に?戯れ言も大概にしろ。
何故人の物をくすねておきながら一般の
“人間”としての権利を主張する。」
私だってなにもしてない人間には
なにも言わない。
言う必要もない。