~悪魔執事とお嬢様~
端から彼らを罵倒し、卑しい目で見て、
人間とは思ってもいない者もいるが、
少なくとも私は違う。
だがこいつは、私に害をなした。
触らぬ神に祟りなしだ。
「さて、その時計を返されるだけでは
私の気がすまない。
かといって、君も、このでかくて黒い男に
また拳を食らわされるのも嫌だろう?」
少年から懐中時計を取り上げ、私は彼の
目の前に来るようゆっくりと歩を進めた。
「ゲホッ、何が……望みだ。」
彼は起き上がりはしないものの、警戒を
高めながら私を目でおっていた。
私は少年の元へ近づくと、そのまま跪き、
少年の息が掛かるほど近くに顔をよせた。
「誰が雇った?言え。」
「!!」
少年の目は、酷く怯えていた。
私を恐怖の対象にしている。
これは、予想が的中したようだな。
「こ、これは……俺が、単独で……」
「私の目の前に、一目で分かる高いバッグを
持ち歩いた太った貴婦人がいた。
他にも、私より周りに警戒心がない人間が
ザラにいた。
それなのになぜ、私を狙った?
私の後ろには、身長の高い黒ずくめの男が
いたんだぞ?
スリの専門でない私ですら狙わない。」
「……ぁ、っ、言、言えるかよ!」
認めたな。
少年は私を睨み付けたが、やはり瞳の奥に
ある恐怖の色は消えていなかった。
「なぜ?」
私が訊くと、
少年は体を小刻みに震わせた。
「お、俺には仲間がいる!
妹も、弟もじーちゃんもばーちゃんも、
病気のルルもカインも、お腹を空かせた
ロンも、名前すらわかっていない
赤ん坊も……
みんな仲間だから、俺みたいな動けるやつじゃないと食わせられないんだよ!」
この怯え方、尋常ではない。
金が欲しいだけなら、さっさと雇い主に
断りをいれてまたターゲットを
変えればいいものを。
それに、この目。
こいつは、何を見ているんだ。
私ではない。