~悪魔執事とお嬢様~
シリウスは、懐から紙とペンをだし、
少年に渡した。
少年から懐中時計を受け取り、
紙にその紋章を描かせた。
「うろ覚えだから、
合ってるかわかんねーけど。」
差し出された紙をシリウスに
受け取らせた。
紙に書いてあったのは、紋章というよりも
マークだった。
貴族のものではない。
「これは、ベイリー社のマーク……。」
「ベイリー社?」
「ベイリー社ァ?」
シリウスと少年は全く同時に話した。
ベイリー社が主犯と言うことに
驚いたと言うより、
会社そのものを知らない様子だった。
シリウスはもちろん、この少年は
イギリスに住んでおきながら
ベイリー社を知らないなんて、
一体どこまで
貧困層に住んでいるんだ。
見覚えがあってもなにかは
わかっていなかったようだ。
社会の常識もないのだな。
私は貴族に生まれて心底よかったと
ひっそり安堵した。
「シリウス、少しは自分から常識を
覚えてはどうですか。
仮にも経営者の執事なんですから。
そして少年、得意のスリでもして新聞を
読むべきだと思いますよ。
情報は生きることへの糧になりますから。」
私は口調を敬語に戻し、呆れながら
そう言った。
シリウスは軽く会釈したが、
少年は顔をうつむかせ、そっと呟く。
「……ほっといてくれ。
それと、俺はもう関わらないからな。
帰る。」
「待ってください。」
少年の肩を(不本意ながら)掴もうと
したが、彼は手を振りほどいて
走っていった。
クソ、まだ聞きたいことがあったのに。
それに……
「シリウス、追いましょう。」
「…クス、お優しいですね?お嬢様。」
わざとらしく微笑しながらシリウスは
私に問いかけた。
私が“優しい”と言われて喜ばないのを
知っているくせに。
「何がです?」