~悪魔執事とお嬢様~
「あの少年、放っておけば恐らく、いえ、
確実に雇い主に殺されますね。
それをわかって助けに行く
おつもりでしょう?」
「私の頭をつついてなにが面白いんですか。
(イギリスの諺のようなもので、
イライラさせるということ)
私はただ、他に覚えていることがないか
どうか聞きたいだけです。」
私とシリウスは、
少年を追うために走った。
どうせ、問いただしても碌なものじゃない
答えしか返ってこないだろう。
それはわかっている。
金を出してくれた相手をいちいち疑って
容姿を確認するなんて、
普通はしない。
恐らく少年も、なにも疑わず金しか
見ていなかったはずだ。
だから、本当の理由はシリウスの
言う通り、彼を助けることだった。
けして情が芽生えたわけではない。
優しくなったわけでもない。
ただ単に、私が臆病者なだけだ。
もしここで助けられるはずの者が
助けられなかったら……
彼らを賎しい目で見ておきながら、
割りきることができずに
偽善で助けようとする。
最低と言うことはわかっていた。
わかっていながら、
私は自分に嘘をついた。
情報を目的として助けるだけだと。
「シリウス、少年の仲間が殺されると
脅されたのなら…」
「ええ、彼と共にそれを実行するの
やもしれません。」
話が面倒になってきた。
こんな面倒なことは嫌いはずなのに!
例え命がかかっていても普通なら
放っておくはずだ。
あぁ、お母様譲りの“優しさ”と
お父様譲りの“正義感”が
しっかり受け継がれてしまった!!
チッ。
死んでも尚あなた方は私の前に
あらわれるのですか。
無意識に走りながら十字を切っていた。
こんなときにすることでもないが、
お父様とお母様がしかるべき
場所へ行けますようにと祈った。
「わたくしという者がありながら、
神にすがるだなんて、罰当たりにも
程がありますよ。」
私の方は息切れしているというのに、
よくそんな長い言葉を喋れるな。
まあでも、シリウスに言われて
自分が悪魔と契約したことを思い出した。
これは言われても仕方がない。
「ハァ、ハァ、それも、そうですね。
今さら、祈りが届くわけもありませんし。」
ヒールの高いブーツを履いているのに
よく走れるものだ。
シリウスの執事服も買わないといけないな。